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奥出雲で世界農業遺産認定記念シンポジウム 今後の活用に期待

古い漢字から、人が集まるにはしっかり木を育てること、知を育むことが必要と語る藤原教授

古い漢字から、人が集まるにはしっかり木を育てること、知を育むことが必要と語る藤原教授

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 奥出雲町カルチャープラザ仁多(奥出雲町三成)で12月19日、「世界農業遺産の認定と今後の活用策を考える~「たたら製鉄を期限とした奥出雲町の農業」の可能性~」と題した、世界農業遺産認定記念シンポジウムが開かれた。主催は奥出雲町農業遺産推進協議会。

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 開会のあいさつに立った糸原保奥出雲町長は、2019(平成31)年2月に「たたら製鉄に由来する奥出雲の資源循環型農業」が日本農業遺産に認定されて以降、今年8月に世界農業遺産に認定されるまで、申請活動を継続して行ってきた経緯を紹介した。「たたら製鉄を再適用した奥出雲地域の持続可能な水管理と農林畜産システム」が、世界で104番目、日本で17番目の認定となった。

 基調講演では、東京大学大学院農学生命科学研究科の八木信行教授が登壇。世界農業遺産等専門家会議の委員長も務めることから、切り崩した山を農地として再生している例が世界でも珍しいことを紹介。世界農業遺産科学助言グループ委員が今年7月に行った現地調査の様子から、委員が特に評価したポイントとして、水の管理を記録してきた過去帳が残されていること、水路が鎮守の森を迂回(うかい)するように作られ効率より伝統文化を重視していること、効率面では不利な在来種である「横田小そば」がしっかり保全されていること、農地整備をしてもそれまで作ってきた土壌を大切に受け継ぎ使っていることなどを紹介した。

 次に壇上に登った地元・横田高校出身で京都大学人文科学研究所の藤原辰史教授は、キーワードとして「回復(リカバリー)」を挙げた。「今世界で求められていることは、自然の回復を人間の回復、精神の回復につなげることであり、奥出雲が世界自然先進自治体となることを目指すべき」と訴えた。そのためには、自然と人が集まってくるよう森の整備を怠らないことと同時に、史料や書籍など知の集積を目指す「奥出雲人文ユニバース」を提案した。「何でもない自然の里山の風景に意味を見いだすためには相当量の言葉の投入が必要であること、言葉にして伝える重要性とそのためには史料や文献の集積が必要」と話した。

 最後に奥出雲町で農業、観光、食文化、農泊の分野でチャレンジを続ける4人がパネルディスカッションに登壇。教育テック大学院大学の大和田順子教授のコーディネートで、「それぞれの活動と世界農業遺産認定をどう生かしていくか」について語り合った。仁多米農家の石原隆幸さんは「仁多米のブランド力向上に一層取り組む」と話し、料理人の立花秀明さんは提供している料理の写真を示しながら「奥出雲には川や山の素晴らしい食材が650種以上あり、ストーリー性のある料理を変わらず提供していきたい」と意気込みを見せた。

 当日は会場に200人余りが集まり、講演やパネルディスカッションに熱心に耳を傾けた。

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